(ニュース記事)田原総一朗「どうしても腑に落ちない『プーチン大統領悪玉論』」

 親ロシア派武装勢力との停戦が合意したウクライナ。プーチン大統領が批難されているが、そうした報道にジャーナリストの田原総一朗氏は異を唱える。

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 ウクライナ政府と東部親ロシア派武装勢力とが、9月5日に停戦に合意したとメディアが一斉に報じた。だが、その後も親ロシア派武装勢力は隙あらばつけ込もうとしており、停戦がいつまで続くのか見当がつかないという。

 2月23日、親ロシアのヤヌコビッチ政権が崩壊してウクライナはEUに参加を決めた。すると、クリミア自治共和国で、明らかに親ロシア兵たちが覆面姿で監視する中での住民投票が行われ、強引にロシアに編入された。EU・アメリカ側はこれを、プーチンのロシアによる公然たる侵略だととらえ非難した。

 さらにウクライナ東部では、親ロシア派勢力が地方政府の地元政府庁舎を占拠し、ウクライナからの分離独立を主張している。親ロシア派勢力の背後では、ロシア軍が露骨に活動していると指摘されている。ウクライナのポロシェンコ大統領やEUは極力、武力行使を回避したいと望んでいるのに対して、プーチンのロシアは公然と軍事力で、クリミアだけでなくウクライナ東部を併合しようと図っている、というわけだ。

 さらに7月17日に、ウクライナ東部でマレーシア航空機が撃墜され、乗客・乗員298人が死亡するという事件が起こって、親ロシア派武装勢力、そしてプーチンのロシアの評判が決定的に悪くなった。プーチン大統領こそが悪の権化だというわけだ。

 だが、私にはこうした報道はいま一つ腑に落ちない。 

 実は、私は1965年にモスクワで開かれた世界ドキュメンタリー会議に出席するためにロシアに行ったことがある。そのとき、当時のソ連の地方都市としてのキエフを訪ねた。穏やかで落ち着いた都市であった。もちろん現在のウクライナの首都である。東西冷戦が溶融するまでは、ウクライナはソ連邦に組み込まれていたのである。そのウクライナが、なぜロシアが反発するはずのEU参加を決めたのだろうか。

 ロシアについてわからない問題が生じると、私は元外務省職員の佐藤優氏に問うことにしている。ウクライナ問題について尋ねると佐藤氏は、新しい著書である『「知」の読書術』を送ってくれた。

 佐藤氏によると、ウクライナは「西部と東部・南部、そしてクリミアとで、民族意識が大きく異なる」、複合的アイデンティティーの国だという。例えばクリミアではロシア語を話す人が圧倒的で、ウクライナ語はほとんど使われておらず、住民の9割以上がロシアへの編入を希望していたというのである。だとすれば、ロシアへの編入を「公然たる侵略」だと決めつけるのは、アメリカによるねじ曲げ情報ということになる。

 そして東部・南部地域も、クリミアほどではないものの、ロシア語を日常的に話す住民が多数派を占めているということだ。

 それに対し、西部(特にガリツィア地方)のウクライナ人たちは、「我々は断じてロシア人ではなく、ウクライナ人である」という強烈な民族意識を持っている。ヤヌコビッチ政権を崩壊させる中軸となったのは、ロシアの影響を排除し、EUとの連携強化をもくろんだ西部の民族主義者たちだというのだ。CIAが絡んでいたという情報もある。

 それにしても、ウクライナの危機にどんな対処方法があるのか。佐藤氏も、対処を誤れば第3次世界大戦の発火点になるとみている。

田原総一朗「どうしても腑に落ちない『プーチン大統領悪玉論』」(dot.) – goo ニュース
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