(ニュース記事)事故から30年、チェルノブイリが動物の楽園に

事故から30年、チェルノブイリが動物の楽園に (ナショナル ジオグラフィック日本版) – Yahoo!ニュース
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 1986年4月26日にチェルノブイリ原発事故が起こってから、今年で30年。人類史上最悪と言われた原発事故の現場周辺に設けられた立入禁止区域は、今ではあらゆる種類の動物たちがすむ楽園となっている。

 見つかるのは、ヘラジカやシカ、ビーバー、フクロウ、ほかにもこの地域には珍しいヒグマやオオヤマネコ、オオカミまで多岐にわたる。高い放射線量にも関わらず、人間による狩猟や生息地の破壊に脅かされることがないため、動物たちは数を増やしていると考えられる。

 現時点では、ウクライナとベラルーシにまたがる立入禁止区域内の動物たちの健康状態について、専門家たちの意見は分かれている。米ジョージア大学サバンナリバー生態学研究所の生物学者ジム・ビーズリー氏は、4月18日付「Frontiers in Ecology and the Environment」誌に論文を発表し、ベラルーシ側にすむ大型哺乳類の数が事故以降増加していると報告した。ビーズリー氏は、ナショナル ジオグラフィック協会の研究・探検委員会の支援を受けて、この地でオオカミを調査している。

 5週間の調査に入ったビーズリー氏は、現地で見かけた動物の数の多さにびっくりしたという。仕掛けていたカメラトラップ(自動撮影カメラ)には、バイソン1頭、イノシシ21頭、アナグマ9匹、ハイイロオオカミ26匹、タヌキ60匹、アカギツネ10匹の姿が捉えられていた。
対立する専門家の意見

 ウクライナとベラルーシ両国の立入禁止区域を合わせた面積は4144平方キロ。今や欧州でも有数の野生生物生息地となっている。

 しかし、チェルノブイリで数を盛り返すことが動物にとって何を意味するのかについては、専門家たちの間で議論が分かれている。ビーズリー氏は14種の哺乳動物を調査し、「立入禁止区域内の高汚染地域で、動物たちの分布が抑制されていることを示す証拠は何も見つからなかった」としている。

 一方、反対の結果が出たと主張する研究者もいる。

「チェルノブイリと福島のツバメは、汚染地域で24時間過ごしています。1時間当たりの被ばく線量はそれほど高くなかったとしても、それが積み重なれば1週間、1か月後にはかなりの量となり、大変な影響を及ぼすレベルに達してしまうでしょう」と語るのは、パリ第11大学のデンマーク人科学者アンダース・パぺ・モラー氏だ。

 モラー氏が生物学者ティモシー・ムソー氏と行った共同研究では、ハタネズミに高い確率で白内障が見られること、鳥の翼にいる有益な細菌の量が減少していること、ツバメに部分的なアルビニズム(色素欠乏)が発生していること、カッコウの数が減少していることなどが報告されている。ただし、深刻な突然変異が起こったのは事故直後のみである。

 両者とも、放射能が人間にも動物にも良くないという点では意見が一致している。しかし問題は、どれほど深刻なのか、そしてそれが動物の個体数減少につながっているのかという点だ。

 低レベルの電離放射線が野生生物や人間にどのような影響を与えるのか、専門家の間で議論は白熱し、特に5年前の福島原発事故以来、政治的問題にもなっている。30年という年月が過ぎたチェルノブイリは、今やその実験場ともいうべき存在となっている。

放射能より人間の存在が悪影響

 チェルノブイリの事故で最も広範囲に拡大し、最も危険性の高かった放射性核種のひとつであるセシウム137は、今年ようやく半減期を迎える。つまり、セシウムの量は事故から30年でほぼ半減し、より短命のバリウム137mへ変化したということだ。

 動物たちは、食物を介して放射性物質を体内へ取り込む。

「ハタネズミの好物であるキノコは、放射性物質を濃縮させてしまいます。汚染されたキノコを食べると、ハタネズミの体内に高濃度の放射性物質がたまり、そのネズミを食べたオオカミが今度は汚染を体内に取り込んでしまいます」と、現地で働くハタネズミの研究者オレナ・ブード氏は説明する。

 しかし、動物の汚染レベルは生息地の汚染濃度、食べ物、そして動物の行動によって変わってくる。チェルノブイリからの放射性降下物は遠く離れたノルウェーのトナカイからも検出されたが、原発近くの立入禁止区域内でも、その量にはばらつきがあるのだ。

 動物の中でもとりわけオオカミは、汚染をある程度免れている可能性がある。オオカミは行動範囲が広く、常に移動し、立入禁止区域の外まで出て行くこともあるからだ。

 ビーズリー氏は、「こうした多くの動物たちにとって、たとえ放射能の影響があったとしても、それは種の存続を妨げるほど個体数を抑制するものではないのだと思います。人間がいなくなったことが、放射能による潜在的影響を相殺してはるかにあまりある効果をもたらしているのでしょう」と指摘する。

 要するに、人間の存在の方が、放射能よりも動物たちには悪影響だということだ。

 事故直後、チェルノブイリに関係する物理学者、作業員、科学者のために建てられた街スラブティチで研究を続けるセルゲイ・ガスチャク氏も強く同意している。立入禁止区域で30年間働いてきたガスチャク氏は、野生生物が「劇的」に増加したと証言する。

 ビーズリー氏は、この場所が放射能汚染によって「荒廃した」とまではいかなくとも、プルトニウムがこの先数百年から数千年間残存するということも分かっている。しかし、人間不在の環境で、動物たちがのびのびと暮らしていることを、彼の論文は示している。

「暫定的な推定分布の数字を見る限り、チェルノブイリでのオオカミの分布密度は、イエローストーン国立公園と比べてもはるかに高いことが分かります」

(一定期間経過後に消えてしまうようなニュース記事を掲載しています。)

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