(ニュース記事)就職難や自殺 韓国の若者たちを苦しめる「ヘル朝鮮」の実像

就職難や自殺 韓国の若者たちを苦しめる「ヘル朝鮮」の実像 (1/3ページ) – 政治・社会 – ZAKZAK
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20151214/frn1512141140004-n1.htm

 ヘル朝鮮。不穏な響きを持つこの言葉が韓国の若者たちに急速に広がっている。超競争社会、就職難、自殺増加……。韓国の抱える病理は、若者たちの希望を奪い去ってしまったかのように思える。韓国在住ジャーナリスト・藤原修平氏によるレポートをお届けする。

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 11月14日の午後、ソウル旧市街中心部の旧王宮前に広がる光化門広場一帯で、大規模な反政府集会が開かれた。付近の地下鉄3駅が一時封鎖され、群衆と化した集会参加者の勢いを止めるべく、ありとあらゆる措置がとられた。

 韓国警察庁によれば、動員された機動隊員は2万名、投入されたバスは700台にのぼり、遮蔽壁を備えたトラック20台も出動したという。集会が始まって間もなく、今回の政治集会を主導した全国民主労働組合総連盟委員長による記者会見文の全文が群衆に向かって朗読されるなか、ある言葉が響き渡った。

 「“ヘル朝鮮政府”の怠慢により若者たちは夢と希望、そして人生までも放棄せざるを得ない」

 ヘル朝鮮。地獄の朝鮮を意味する言葉だ。

 時を同じくして、光化門広場から北東に2kmほど離れた大学路一帯では「地獄の炎半島、ヘル朝鮮を転覆させる青年総決起集会」なるものが開かれていた。参加者である一人の青年は、「ヘル朝鮮にはつける薬がない」と手書きのプラカードを首にかける。

 ヘル朝鮮は、韓国の新流行語である。初出こそ定かでないが、ネットでの書き込みで最も古いものが2012年9月である。

 もともとは、今から数百年前の朝鮮時代をあげつらう意図のもとで使用されていた。たとえば、「高麗時代の平均寿命40歳、朝鮮時代の平均寿命25歳」や、「壬辰倭乱(日本名・文禄慶長の役)で20万の軍勢が攻めてきたら国が滅亡寸前にまでなった」という文脈に即して使われた。

 ところが2015年6月あたりから、朴槿恵政権に不満をもつ若者たちがそれまでのヘル朝鮮のイメージを現在の韓国社会に重ね合わせるようになった。これに韓国の全国紙、東亜日報は敏感に反応し、8月21日付で「ヘル朝鮮という言葉がこれから大流行するであろう」との予測をたてた。

 実際に大流行したのはそれから約一か月後。9月22日、韓国で運営されている英語版ネットメディアのコリア・エクスポゼが「韓国、汝の名はヘル朝鮮」(Korea, Thy Name is Hell Joseon)と題した記事を発信したのがきっかけだった。

 ◆フライドチキン屋オーナーの嘆き

 社名のエクスポゼとはフランス語で、英語のExposed(露出された)にあたる。つまり「素っ裸のコリア」。ホームページを見ると同社は、朝鮮半島全域のナマの実態を韓国人だけでなく世界の人々に知らしめる、といったスローガンを掲げている。

 該当の記事を書いたク・セウン氏にインタビューを依頼したところ、「スケジュールの調整がつかないので辞退したい」との回答があった。そこでここではその記事が示した“ヘル朝鮮”の実像に迫ってみることにする。

 例えば、国家機関への縁故採用だ。2010年、当時の李明博大統領が「公正なる社会」を築くキャンペーンを宣言した矢先、柳明桓・韓国外交通商部長官が後ろ盾となって、娘を外通部内で天下りさせたとの疑惑が発覚し、長官が辞任に追い込まれた。

 そして2015年6月、行政機関や公務員の職務を監視するはずの監査院の弁護士採用で、この機関の高位職の子女が優先されたことが明らかになった。

 公正なる社会という理想と、国を挙げての縁故採用が続く現実。韓国におけるこうした落差を5年後に再び見せつけられたことが、若者たちに“ヘル朝鮮”を実感させていると記事は指摘する。

 韓国の若者が歩まされるエリートへの道と、その挫折についても同記事は追及する。

 大学を出ても就職できず、若くして失業という名の蟻地獄にもがき苦しむか、あるいは、首尾よく大企業に就職してエリートの一角に組み込まれたとしても、多くは40代で退社を余儀なくされ、全国津々浦々で見かけるフライドチキン屋のオーナーになるのがオチだと述べる。

 韓国では大卒ですぐに就職できないことは珍しくなく、2014年では20代の就業率が57.4%であった。若者に夢のある社会を作ろうと理想を掲げる朴槿恵政権下では、目下、大学改革を進めている。

 筆者が大学関係者に話を聞いたところ、卒業後の就職率などをもとに大学がランキング化され、順位に従って大学への補助金交付額も定められるという。記事で言うフライドチキン屋とは、フライドチキンやグリルチキンにビールを合わせて楽しむ大衆飲食店の形態の一つだ。

 ビールの韓国語メクチュとチキンの合成語であるチメクという言葉があるほどポピュラーで、全国何処に行こうと、集落のあるところであれば必ず行き当たる。都市部の店のオーナーには、ソウル大、高麗大、延世大の最高峰を卒業し、大企業を経験したエリート出身者も少なくない。

 その仕事に誇りを見出せない彼らが口を揃えるのは、自分の子どもたちが海外の有名大学に留学しているとか、一儲けしたら海外に移住したいといったことなのだ。それでも、そうやって生きていけることはまだよい方だとク・セウン氏は述べている。紆余曲折の人生の末に社会のアウトサイダーとなったまま死を迎える悲劇に言及する。

 韓国における10代の自殺率(2014年)は10万人あたり約4.5人で、OECD国家のなかでほぼ平均値である。だが、全世代の自殺率で比べるとOECD国家のなかでトップであり、平均値の2倍になる。つまり中高年での自殺が極めて多いということだ。
 ※SAPIO2016年1月号

(一定期間経過後に消えてしまうようなニュース記事を掲載しています。)

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