(ニュース記事)中国が南シナ海で強硬姿勢を貫く根本原因 どうせ米国は何もしないと高をくくっている

中国が南シナ海で強硬姿勢を貫く根本原因 どうせ米国は何もしないと高をくくっている- 記事詳細|Infoseekニュース
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どの国の指導者でも同じだが、他国を訪問する場合、相手国の期待にできるだけ応えようとする。習近平国家主席の訪米(9月22日~25日)も例外でなく、中国側はよく準備してから訪問したことが見て取れた。

しかし、それでも、米中関係に影を落としていた問題すべてを訪米前に解決するには至らなかった。習主席はバラク・オバマ大統領に国賓として迎えられたが、訪問全体を見ると熱烈歓迎でなかった。なんと言っても米議会での演説も認められなかった。

■ローマ法王とは比較にならないほどの待遇

訪問のタイミングも悪かったといえる。同時期に訪米し、空港で大統領及び副大統領夫妻が出迎える、という異例の熱烈歓迎を受けたローマ法王フランシスコの後だっただけに、それとは遠く及ばない扱いであることを印象づける結果となってしまった。

中国はかねてから、中国と米国の関係は「新しい型の大国間関係」であることを米国に認めさせようとしてきた。米国と並ぶ立つ国こそが中国であるということだ。ところが、米国は、中国が重要な国であると認めても、米国と並び立っているとは認めていない。習主席は今回の訪米でも米中が2大国であることを強調したが、オバマ大統領からその言葉は引き出せなかった。

こんな状態では、習主席の訪米を成功だったと評価はできない。しかし、だからといって「失敗だった」と単純に割り切って評価すべきでないのはもちろんだ。

今回の訪米では大きな成果があった。それはいったいどういうものなのか。日本人はしっかりと知っておく必要がある。

訪問の最初に、習近平主席がボーイング社の飛行機を300機購入すると発表したことは印象的だった。内装や塗装などの工程は中国内で新設される工場で行なわれるので、アメリカ人が期待するほど雇用増に繋がらないとの懸念も指摘されているが、全体として中国の爆買いぶりは、「アメリカ製品を大量に購入してくれる友好国」として、現地に強くアピールした。

温暖化対策について進展があった点も重要だ。習主席が2017年から排出量取引を導入するとの方針を明らかにしたことは、歓迎すべきことだ。米国はCO2排出の抑制にかねてから消極的だったが、今回のことが刺激にもなっただろう。

■安全保障・軍事では挑戦的な態度

一方、安全保障・軍事に関係することでは、習主席の態度は全般的に硬いままであり、時には挑戦的でさえあった。私は、習主席の訪米を通じてとくにこの点に注目している。

サイバー攻撃については、米側は中国軍あるいは軍人が関与しているとの考えであり、関与した軍人を特定し、出頭を求めていた。さらに、中国企業による米企業からの情報窃取問題が加わり、今年の8月に訪中したライス大統領補佐官はサイバー攻撃を行なった25の中国企業名を示し、制裁の可能性を示唆するなどして中国側の対応を強く促した。

そのため中国としても話し合いに応じざるをえなくなり、孟建柱政法委員会書記(公安の要、政治局委員)を派遣して米側との妥協点を探らせた。習近平主席の訪米時に米中両国がお互いに攻撃しないことに合意できたのは、米中双方でこの問題を何とか収めようと努めた結果だ。

しかし、この合意により米側のいら立ちが完全に解消されたと考えるのは早すぎる。今後サイバー攻撃問題について中国がはたして合意を尊重するか米側は引き続き注視するだろう。中国政府が企業の行動を完全にコントロールできるかという問題もある。

サイバー攻撃問題と違って、中国軍の行動については、習主席は妥協の余地を見せなかった。

訪米に先立つ9月初め、中国の艦艇がベーリング海で、公海上ではあるが米領海の近くを航行した。米国防総省は、この航行は国際法違反でなく問題視していないとの見解であったが、刺激されていた可能性は排除できない。日本政府は海上自衛隊に中国艦艇のような行動を決して許さないだろう

また、その後(15日)、山東半島の東130キロメートルの黄海上で、米軍の偵察機の前方わずか150メートルを中国軍の戦闘爆撃機が横切るという事件が発生。これも公海上であったが、米国は危険な行為であり、航行を妨害されたと指摘した。

米中の海軍および空軍は以前にも衝突や摩擦を起こしており、さすがに中国としても今回は危険を回避する必要性を認め、空軍同士の行動規範をつくることに合意している。

これらの事例は偶発的に起こることである。それに対し確信的な行動といえるのが、中国による南シナ海進出の問題だ。

南シナ海では中国は計画的に埋め立て工事や飛行場建設などを行なってきたので、米国は強く問題視し、種々の機会に中国側に米側の懸念を伝えていた。今回の首脳会談でもこの問題は最大の懸案の一つだった。

会談内容は公表されなかったが、会談後の記者会見において、オバマ大統領は「争いのある海域で埋め立てや軍事拠点化を進めることに深刻な懸念を習主席に伝えた」と率直に説明している。これに対し習主席は、「南シナ海は昔から中国の固有の領土であり、中国の主権」と明言した。南シナ海の問題について中国は妥協することはないと公言したのだ。

習主席は訪中を成功させるため、前述の「爆買い」や地球温暖化対策の例を引くまでもなくかなりの努力を払ってきた。もしそのような協調的精神に徹するのであれば、南シナ海問題については違いを目立たせないですませる方法があったはずだが、各国の報道陣や外交官が居並ぶホワイトハウス前の芝生の上で、真っ向から、オバマ大統領の説明に反論することを選んだ。

■なぜ南シナ海について強い態度を取ったのか

習主席が南シナ海の問題についてこれほど強い態度を取ったのはなぜか。それは、中国の海洋(大国化)戦略のためであり、また、台湾と大陸の間の海域は中国の領域とみなしているからである。しかし、このような考えは国際法に違反しており、日米両国も周辺の東南アジア諸国も到底認めることはできない。

各国のそのような見解を中国が知らないはずはないが、中国として態度を変更することは、残念ながら、できないだろう。中国では、安全保障や軍の関係することは主権にかかわることだという観念が強く、譲歩をすれば中国の現体制が脅かされると思っているからだ。

しかし、中国は強硬姿勢一本やりなのではない。「米国と中国はとくに経済面で相互依存関係にあり、両国とも関係をぶち壊すことはできないし、ありえない。したがって小競り合いを起こっても正面衝突は回避できる。そうであれば中国だけが譲歩しなければならない理由はない」とみなしているのではないか。中国は計算もしているのだ。

これは、国際法やルールにのっとった考えではないが、中国がよく引用する「小異を残して大同につく」ことに他ならない。この言葉は巧みな表現だが、異なる意味になりうる。とくに、「小異を残して」が問題であり、「小異を解消しようと努めるがなかなかできない」というのが常識的な解釈だが、「小異は解消しなくてもかまわない」ということもありうる。中国が、米国との基本関係さえ壊さなければ、衝突やサイバー攻撃など「小異」であり、それが解消されなくても怖くないとみなしているのならば後者であろう。

習主席がホワイトハウスで南シナ海について強気の発言をした時、「小異を解消する」という姿勢は感じられなかった。米国の主張には耳を貸さず、中国の方針を貫徹しても両国関係が根本から破壊されることにはならないという考えの下での発言だった可能性がある。

米国は、中国側の駆け引きに応じることなく、毅然として南シナ海を守る姿勢を示す必要があるだろう。さもなければ東南アジアにおける米国の同盟国との関係が根本から崩れかねない。その意味で、米国は対中国関係において、大きな岐路に立たされている。次期大統領は難しい課題を背負うことになるだろう。

(一定期間経過後に消えてしまうようなニュース記事を掲載しています。)

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