(ニュース記事)着弾事件でミャンマーに足元を見られた中国は「張り子の虎」なのか

【チャイナ監視台】着弾事件でミャンマーに足元を見られた中国は「張り子の虎」なのか (1/3ページ) – 政治・社会 – ZAKZAK
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20150414/frn1504140842003-n1.htm

 「ミャンマー空軍機の爆弾が中国雲南省の農村に着弾し4人が死亡、9人がけがをした」

 中国国営新華社通信が3月14日に配信したこのニュースを読んだとき、一瞬、意味を理解できなかった。「爆弾が着弾した」という表現があまり見慣れないからだ。しばらく考えた。「ミャンマーの空軍機が中国の領空を侵犯し、雲南省の農村を空爆して中国人を殺害した」という意味であることに気付いた。

 今年初め、ミャンマー政府軍と同国北部の中国系少数民族コーカン族など複数の武装勢力との内戦が勃発した。戦火から逃れるために3万人以上の難民が国境を越え中国側に流れ込んでいる。

 「ミャンマーの空軍機は、武装勢力の兵士を追跡しているうちに中国領空に入り、誤ってサトウキビ畑で農作業をしていた中国人農民を攻撃した可能性がある」(中国の外交関係者)

 誤爆とはいえ、中国にとって屈辱的な出来事である。にもかかわらず、新華社は「ミャンマー空軍が越境攻撃」と書かず「爆弾が着弾した」という主語を曖昧にする表現を使っている。中国国民の間で反ミャンマー感情が高まるのを避けたい目的があるとみられる。

 その後の中国政府の対応はまさにその通りとなった。中国外務省の劉振民次官が北京に駐在するミャンマー大使を呼んで抗議し、再発防止を強く求めただけで、報復措置を示唆する言動はなかった。日本政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化を発表したときなどと比べて、中国はずっと穏やかな対応をとっている。

 「日本に対し強硬姿勢を示す中国は、ミャンマーに対して意外と弱腰だ」と思ったら、ミャンマー側の反応を見てもっと驚いた。自国の内戦で関係のない中国人を巻き込んだわけだから、最高司令官が北京に飛んできて土下座して謝罪してもおかしくないのに、「あれはゲリラ勢力の仕業だ。政府軍による攻撃ではない」と当初は関与を否定した。ミャンマー側の言っていることは、誰からみても嘘である。ミャンマー政府軍と戦っている少数民族ゲリラは爆撃機などを持っていないことは衆知の事実であるからだ。ミャンマー側は、今の中国は厳しい対抗措置を取れないことを知っており、足元を見た強気な対応に終始したわけだ。

 ミャンマーが強気な理由は2つあるといわれている。まず、中国にとってミャンマーは、パイプラインなどを通じてエネルギーを確保すると同時に、近隣外交を展開する上で不可欠な重要国だ。南シナ海の離島の領有権問題などで、東南アジア諸国と関係が悪化している中国はいま、ミャンマーとの関係を大事にせざるを得ない。

 もうひとつは、中国がミャンマーの内戦に介入していることを隠したい思惑もある。ミャンマー北東部に住むコーカン族は、明末などに移住した中国人の子孫で、自分たちが住む地域を「中国の一部だ」と主張することもある。今年1月、ミャンマー北部の少数民族カチン族が、森林の過度な伐採などを理由に政府軍と衝突し内戦が始まったが、コーカン族の集落も政府軍との戦闘に参加した。中国当局はコーカン族の武装勢力をひそかに支援しているといわれる。ミャンマー政府軍が拘束した捕虜のなかに、複数の中国人が含まれているとの情報もある。ミャンマーが越境攻撃した背景にはこうした事情もあり、空爆事件が大きくなれば、「中国が他国の内政に介入した」との事実が公になる可能性もある。

 また、空爆事件は中国空軍にとっても大失態である。2013年に東シナ海で防空識別圏を設置し、「不審機があれば、緊急発進(スクランブル)する」などと勇ましいことを言った。しかし、1960年代に生産したとされるミャンマーの老朽した爆撃機にやすやすと領空を侵犯され、空爆されたのに、なんの反応もできなかった。習近平指導部が力強く推進する強兵路線の脆(もろ)さを国際社会に知られてしまった結果となった。

 米中が対立した1960年代、中国建国の父、毛沢東は「米国はしょせん、張り子の虎だ」と言ったことがある。今回の空爆事件をめぐり、中国の外交も軍事も「張り子の虎」であることが明らかになったようだ。(矢板明夫)

(一定期間経過後に消えてしまうようなニュース記事を掲載しています。)

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