(ニュース記事)韓国に突きつけられた学問、研究の自由 慰安婦問題からみメディアはほぼ黙殺

韓国に突きつけられた学問、研究の自由 慰安婦問題からみメディアはほぼ黙殺 (産経新聞) – Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151128-00000501-san-kr

 【ソウル=名村隆寛】言論の自由に対する公権力の圧力が問われる韓国で、今度は慰安婦問題の学術研究書「帝国の慰安婦」の著者、朴裕河(パク・ユハ)世宗大教授が、元慰安婦の女性の名誉を毀損(きそん)したとして、在宅起訴された。だが、言論や表現の自由には日ごろからうるさいはずの韓国メディアの多くは、不思議なことに学問や研究の自由を脅かす事態を黙殺し続けている。

 昨年6月、元慰安婦の女性ら11人が、韓国で2013年に出版された朴氏の著書に、慰安婦について「自発的な売春婦」で「日本軍とも同志的関係にあった」などの記述を「侮辱だ」として、朴氏を告訴した。元慰安婦らは出版差し止めの仮処分も申請し、今年2月にソウル東部地裁が内容の一部削除を求める仮処分を出した。同書は「問題部分」の文字を伏せて出版されている。

 著書で朴氏は、慰安婦問題は「帝国主義体制下での女性の人権侵害だった」と分析するなど、構造的な問題を指摘している。慰安婦が「国家の奴隷でもあり、自由がないという意味で軍人と変わらない」とし、当時の日本の責任を強く追及している。日本に肩入れしたような内容ではない。

 ところが、検察(ソウル東部地検)では元慰安婦らの主張を容れ、「虚偽」と断じた。「虚偽の内容で被害者らの人格権と名誉権を侵害し、学問の自由を逸脱している」というのだ。

 朴氏の在宅起訴が判明した19日から一夜明けた20日、韓国の主要各紙は起訴の事実を簡単に伝えただけだった。ニュース報道は日本メディアの方が早く、いずれも学問や研究、表現の自由を無視したかのような韓国の公権力の手法を問題視した。

 日本がからむ問題、特に慰安婦問題など「歴史認識」がからむと、韓国では「法」よりも「情」、つまり国民の情緒や感情に合わせるかのような捜査や司法判断が必ずといっていいほど出る。特に最近ではこの風潮が強くなっている。

 こうしたなか、慰安婦問題に対し日本政府に批判的な立場をとり続けてきた朝日新聞(21日付朝刊)は、「歴史観の訴追 韓国の自由の危機だ」と題した社説を掲載。社説は「史実の正否は検察当局が判断を下すべきではない。歴史の解釈や表現をめぐる学問の自由な営みを公権力が罰するのは、きわめて危険なことである」と危惧した。

 朝日新聞は昨年8月に過去の慰安婦報道の検証記事を掲載し、1980~90年代の関連記事を取り消した。日本国内では朝日への批判世論が高まったが、韓国メディアでは当時、強い“朝日擁護論”が起きた。「知恵を出して(朝日新聞を)助ける方法が韓国政府にあるはずだ」(朝鮮日報)との主張まで出た。

 韓国で「極右」のレッテルを貼られ日常的に批判の的にされている産経新聞とは違い、朝日新聞は当地では現在も「良心的日本メディア」と歓迎されている。その良心派メディアの朝日新聞が、韓国当局の「学問の自由」への介入に苦言を呈した。それなのに韓国メディアはほとんどが沈黙したままだった。

 ところが、26日に日本のジャーナリストや学者ら有志が、朴教授の在宅起訴に対し「学問の場に公権力が踏み込むべきでないのは、近代民主主義の基本原理ではないか」と憂慮する抗議声明を発表した。

 抗議声明の賛同人には、河野洋平元官房長官、村山富市元首相、若宮啓文・元朝日新聞主筆ら、韓国メディアが「日本の良心派」と評価する人々が名を連ねている。

 朝鮮日報(27日付)は、東京特派員のコラムで声明発表の事実を伝えた上で、「(賛同人は)『合理的な日本』『良心的な日本』を代表するA級の学者・論客・政治家を網羅しているとみていい。問題は彼らの指摘に、韓国人がどこまで共鳴するかという点だ」と指摘した。さらに、「彼らは、思想の自由があるべきだと主張した。『韓国社会にその自由があるのか』と問い掛けた」と韓国に向けて問題提起した。

 また、韓国日報(同日付)は「今回の起訴は韓国社会の成熟度、寛容度の指標となると同時に、気に入らないという理由で学問の領域にまで、くつわをはめることができるのかを見定めることになる」と懸念を示した。

 朝鮮日報が持ち上げるように、有志らが「A級」なのかどうかはともかく、表現、言論、学問、研究の自由に対する刑事処罰の是非について、常識的なメディア関係者は分かっているのだろう。ただ、朴教授の在宅起訴を問題視する韓国メディアは現時点では、驚くほど少なく、“知らないふり”をしているかのようだ。

 「慰安婦」「日本がらみの歴史問題」が俎上に上がると、韓国メディアのほとんど(全てといってもいい)が異論をはさまない。韓国メディアが嫌悪する「日本の右翼」だけでなく、「日本の良心派」からも出てきた批判をどう感じているのか、問いたいところだ。

(一定期間経過後に消えてしまうようなニュース記事を掲載しています。)

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