(ニュース記事)「世界1幸せな国」デンマークの本性 難民の現金や貴重品を没収する法案を可決

「世界1幸せな国」デンマークの本性 難民の現金や貴重品を没収する法案を可決(木村正人) – 個人 – Yahoo!ニュース
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17万2千円を超過した分は没収、ナチスを彷彿

デンマーク議会は26日、警察が難民申請者の所持品を検査し、現金や所持品が1万クローネ(約17万2千円)を超える場合、超過分を没収し、難民の食費や住居費に使えるようにする法案を賛成多数で可決しました。しかし、オカネを持っている難民は飛行機で移動して、ホテルに滞在しており、難民滞在施設で暮らしているわけではありません。親類宅に身を寄せている人もいます。

嫌がらせとしか思えない法案です。例外として認められるのは結婚指輪や婚約指輪、勲章、メダルといった「思い出の品」だけです。ユダヤ人らから金や貴重品を取り上げたナチスと同じだという国際的な批判を浴びて金額が3千クローネから1万クローネに引き上げられましたが、他にもさまざまな規制強化策が盛り込まれています。

居住許可の期間が5年から2年に短縮されました。難民認定者はこれまで1年で家族を祖国から呼び寄せることができましたが、期間が3年に延長されました。家族を呼び寄せる手続きにはさらに数年を要します。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルなどから欧州人権条約、国連の子どもの権利条約、難民条約に違反しているという強い懸念が示されています。

永住権取得に関してもデンマーク語の取得レベルが引き上げられました。雇用期間の条件も「過去5年のうち3年」から「過去3年のうち2年半」に厳しくされ、これまでは5年デンマークに居住していれば永住権を申請できたものを6年に延長しました。

この法案は数日中に同国女王のマルグレーテ2世が署名して法律として成立する見通しです。「難民嫌がらせ法案」には「デンマークはこんなに難民に意地悪な国なんだよ」「思いやりのかけらもない国ですよ」と世界中に知らせて、シリアやアフガニスタンから難民が来ないようにする狙いが込められています。

「極右」政党の前党首が議長

議会の採決では、ラスムセン首相率いる与党・自由党など右派政党と移民排斥を訴える右派ポピュリスト政党・デンマーク国民党、それに加えて最大野党の左派・社会民主党まで賛成に回りました。賛成81票、反対27票。棄権は1人、70人が欠席しました。社会民主党まで賛成に回ったというのは驚きです。しかし、もっと驚くことがあります。
ピア・ケアスゴー議長(デンマーク議会HPより)ピア・ケアスゴー議長(デンマーク議会HPより)
デンマーク議会の議長は「極右」と非難されることもあるデンマーク国民党の前党首ピア・ケアスゴー女史だということです。彼女は「国民の多くが心の奥底で思っていることを分かりやすい言葉ではっきり表現する」ことをモットーに移民規制の強化を求める発言を続けて議会での議席を増やし、2001年11月に発足した自由党・保守党の少数右派連立政権に閣外協力します。

デンマーク国民党の意向で、デンマークでは国民が外国人と結婚した場合、どちらも24歳以上にならないとデンマークに呼び寄せることができないという悪名高き「24歳ルール」、夫婦のデンマークへの関わりが出身国への関わりより強くなければならない「関わりルール」や保証金5万クローネ(その後、10万クローネに引き上げ)の残高証明など、移民規制が強化されました。

イスラム系移民に寛大な隣国スウェーデンの政策はいずれ破綻し、デンマークはそのトバッチリを受けるというケアスゴー前党首の主張は人気を集めます。前党首の支持者は皮肉を込めて「ピアニスト(ピアは彼女の名前)」と呼ばれています。同じ北欧の福祉国家でも、スウェーデンは「移民に最も寛容な国」と称えられるのに対し、デンマークは「移民に最も抑圧的な国」と揶揄されています。
出典:ユーロスタットのデータをもとに筆者作成出典:ユーロスタットのデータをもとに筆者作成
上の棒グラフはユーロスタット(EU統計局)のデータをもとに筆者が作成したものです。デンマークの人口は約565万人、スウェーデンは約972万人です。14年10月から15年9月にかけて新たにあった難民認定申請件数はそれぞれ1万3340件と9万4100件と大きな開きがあります。

デンマーク議会の顔であるケアスゴー議長は、フランスの国民戦線、スウェーデン民主党、フィンランドの真正フィン人党など欧州で成功している右派ポピュリスト政党のお手本になった人なのです。2015年6月の総選挙で、デンマーク国民党は15議席増の37議席を獲得して第2党になりました。議長就任はラスムセン首相に協力する見返りです。

「世界1幸せな国」

デンマークは「世界1幸せな国」という仮面を外して、イスラム系移民や難民に対して「最も冷たい国」という本性をさらけ出しました。筆者はこれまでデンマークでイスラム教徒と結婚した女性やイスラム系移民の何人かに取材したことがありますが、デンマークは1990年代までは人道主義に基づき、イスラム系移民に寛大で優しい国でした。

自転車を利用する人が多く、環境に優しい。長時間労働時間がなく、ライフバランスがとれている。腐敗がない。こうしたことからデンマークは国連の「世界幸福度」ランキングで12年と13年に世界1になっています。15年の最新報告書では順位を落としましたが、それでもスイス、アイスランドに次いで堂々の3位です。

難民申請者の財産を没収する措置は実はスイスやドイツの南部バーデン・ビュルテンベルク州とバイエルン州でも導入されているそうです。世界幸福度ランキングで1位と3位の国が難民申請者の財産を没収するとは一体どういうことなのでしょう。これが「偽善」という仮面を剥ぎとった欧州の人道主義の素顔なのだと思います。

崩壊する「移動の自由」

寛容の国スウェーデンが国境管理を強化したことで、デンマークも難民や移民に対する規制を強化しました。スウェーデンに入れなかった難民がデンマークで滞留すると困るからです。欧州連合(EU)は26日、旅券なしで自由な行き来を認めるシェンゲン協定の参加国に最長2年の期限付きで入国審査の再導入を認めるかどうか検討しました。

シェンゲン協定国の中で、スウェーデンとデンマークに加えてオーストリア、ドイツ、フランス、EUには加盟していないノルウェーがすでに6カ月の期限付きで入国審査を再導入しています。シェンゲン協定に入っていない英国でも食料の配給を希望する難民申請者に識別用のリストバンドをはめさせたり、難民申請者の家のドアを赤く塗ったりしていたことが明らかになりました。

欧州統合の理念だった「移動の自由」は事実上、崩壊しています。EU全体として中東・北アフリカ地域の平和と安定を主導し、難民を引き受ける割当制を実現、EU域外との境界管理や隣接国との協力を強化しない限り、状況の改善は見込めないでしょう。シリアだけでなく、過激派組織ISの台頭でリビアでも治安情勢が悪化しています。

スウェーデンの難民滞在施設で22歳の女性職員が15歳の難民孤児に刺殺された事件のように、きれいごとや理想では済ませられないほど状況が緊張しているのは確かです。しかし、デンマークの身勝手な政策は近隣窮乏化政策に過ぎず、EU加盟国の足並みを乱すだけでなく、イスラム社会に非常にネガティブなメッセージを送ることになります。こうした排外主義ポピュリズムが欧州を覆いだすと、問題がさらに悪化するのは必至です。

(一定期間経過後に消えてしまうようなニュース記事を掲載しています。)

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